第3章 【Dtm】小ネタ
「しないのか」
なにを、って言うより先に、轟くんは行き場をなくした私の指に自身の指を絡めた。
やがてしっかり繋がれてしまって、折角思い留まったのにな、と苦笑した。でも、繋がれた手に心地良さを覚えているのも確かだった。
「やっぱり、俺は相手だとなんか、変だ」
「そうなの?天然炸裂平常運転かと」
「そのうち歯止め効かなくなるかもしれねぇ……から、そん時はすぐ逃げろ。ってもは流されやすいからな。俺が気をつけるしかねぇか……」
「はどめ……?」
轟くんが真剣な眼差しを向けるから、私は間抜けな声で繰り返してしまった。
「それは、その、どういう?」
「いや……悪ィ、今のナシだ。何でもねぇから忘れろ」
どういう意味なのか問おうとしたら轟くんは緩く頭を横に振って溜息を零した。それから、繋いでいない方の手で私の頭をぽんぽんと撫でてどこか辛そうに微笑んだ。
「怖いか」
「えっ?っううん!全然怖くないよ。いつもこうして触れてくれて、ありがと。慣れてきてね、轟くんの手、気持ちいいって思うくらいなんだよ」
改まって自分の想いを伝えるのはどこか照れくさくて、はにかんでから彼の手を引いて歩き始めた。
虚をつかれたような表情を浮かべた轟くんに首を傾げると、彼はまたひとつ溜息をついた。
「それ、他の奴には言うな」
「ふふっ言わないよ。轟くんだけだもん」
私に触れる人なんて限られてる。なにせ第一印象がアレだったからなぁ。思い出して小さく笑ったら、轟くんは眉間にしわ寄せて変な顔をしていた。
さらに繋がれた手に力が込められる。様子のおかしい彼の身を案じてどうしたのかと訊ねた。
「耐えてる」
「な、なにを?どこか痛い?大丈夫?」
「無理だ」
「えええっ待って、そうだ、一番近い病院!いこう!」
「病院じゃ治せねぇって言われた」
「どっどういうこと!?」
「病気じゃなかったってことだ」
よかった……。とりあえず一安心。でも、結局何を耐えてたのかは聞けなかった。
「そういや、飯田に触るなって言われたのに触っちまったな」
繋がれた手を見つめて呟いた轟くん。くすりと笑って、今更だよと言ったら轟くんも確かにそうだな、と柔らかな表情を浮かべた。
end.