第8章 本当のこと
玄関で、私は紙袋に、変身道具を詰めて渡した。
カカシは、また口布をしている。
いつものカカシに戻っていた。
馴染みのある姿でホッとする。
やはり、彼は口布がお似合いだ。
「カカシ、今日映画付き合ってくれて、ありがとう。またね。」
ぎこちない笑顔を浮かべながら
彼に感謝の言葉を伝えていた。
「…ああ、じゃあ…またな。」
彼がドアに手をかけた時、
溜息が聞こえた。
何か言いたいのだろうか、
少し動かないままであった。
「もう一度だけ、抱きしめていい?」
ゆっくり振り返って私を見ている。その言葉にドクンと胸が鳴った。
「カカシ…ダメだよ……」
視線を逸らして伝えたのに
カカシは無視して抱きしめてくる。
「好きだよ………」
少しの間、抱き合っていた。
気持ちいいと感じ抵抗しなかった。
彼の感触から、
スケアさんを思い出していた。
涙を必死に堪えていた。
大好きになった人は、
存在していなかった。
カカシは私が涙を堪えているのに気づいたのか、悲しそうな瞳をしている。
「悪い…本当に。じゃあ…」
そう言って、ドアを開けて
外に出て行った。