第11章 abduction
目の前にあるベッドで眠る黒崎くんは傷だらけだった
「え…えへへ……来ちゃった」
聞こえるはずのない私の声
「ほんとはね、たつきちゃんとか茶渡くんとか、石田くんとか朽木さんとか…お別れ言いたい人はいっぱいいたんだけど…」
「うぅ…ん…」
急に聞こえた声に少し焦る
少し覗き込むと声の主がわかった
「…そっか。遊子ちゃんと夏梨ちゃん…今日はここでごはん食べたんだ…」
二人はぐっすり眠っているようだ
「…そうだよね、ずっと黒崎くん居なくて淋しかったもんね…黒崎くんの部屋で一緒にごはん食べたいよね…」
そういえば…あたし黒崎くんの部屋に入るの初めてだ……黒崎くんの…においがする…
そんな事を思いながら黒崎くんにキスをしよとした
でも、できなかった
「…ダメだ…やっぱりできないや…」
涙が頬を伝い、黒崎くんの頬に落ちる
「ダメだね、あたし…最後なのにこんなことして…」
したいことたくさんあったのになあ
「あ〜あ!人生が5回ぐらいあったらなあ!」
そしたらきっと…
「5回とも違う町に生まれて、5回とも違うものおなかいっぱい食べて、5回とも違う仕事して…それで5回とも…同じ人を好きになる。」
私は黒崎くんの怪我を治療する
「…ありがとう、黒崎くん…
さよなら」
一方的な別れを告げ、破面に言われた場所へと向かう
その場所へ行く途中も…涙は途切れなかった
「みんな、バイバイ。」
蝶ちゃん…待ってるからね
私は現世を後にした
蝶side
怪我を織姫に治してもらい、織姫を家まで送り届けた私は浦原商店に帰ってきていた
『…ただいま…』
返事のない部屋にそう言った
自室のベッドに寝転ぶ
窓の外を見れば、綺麗な三日月が道を照らしていた
『織姫…』
穿界門で…織姫を守れなかった
それに加え…織姫は破面に従わざるをえなくなってしまった…
『何が、みんなを護りたい…よ…』
たった一人の友人ですら護れないのに…
《でも、護りたいから…あの花を渡したんだよね?》
神無月がそう聞いてきた
『…そうね…。少しでも…助けになればと思ってね…』