第10章 オマケのオハナシ
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「ねぇ、ちょっと!
ちゃんと聞いてる?」
気付いたら意識は別のところで
呆れた顔の綾子に、現実に引き戻される
「ああ。……で、なんだっけ?」
「昨日よ!昨日!!
何度インターホン押したと思ってるの!?」
仕事終わりに呼び出されたBAR
苛立ちを露わにした彼女は、一方的に喋り続ける
「悪かったよ、まじで」
見合いをぶち壊した後、
ウチのオフクロは、完全に放心状態で
見合い相手に申し訳ないのは勿論
大事な一人息子が、男と逃げた現実
ショックを受けるのは当然だろう
そこで、そこに居合わせた綾子は
すべてが芝居だと
見合いをしたくない
結婚はしたくないという、意思表示だと
一見、子供じみた計画を、
それはもう感情込めて、淡々と語ったらしく……
起きた現実を、嘘だと思い込みたいオフクロの心理を上手く利用して
その場を丸く納めていた
「覚悟してたんだけどね。オレは」
「アナタはね。
でも、お母様は相当堪えたでしょうね」
「お前が言うな。
焚き付けたの誰だ」
ケロリとした顔で、
"だから何?"と返すコイツは、やっぱりスゴい
「とにかく…
ありがとな」
「解ればいいのよ」
ようやく、満足そうに笑顔を見せた彼女に、
ホッとして口に含んだビールは、
すっかり泡も無くなって温くなってしまっている
「私とお付き合いしてるんですけど、
今はどうしても一緒になれないので。
生徒の彼に、一芝居してもらったんです」
「ぶはっ…!?」
「そう伝えたらね。
お母様、待つって約束してくれたの」
「な…に、勝手なこと言ってん、だよ」
「だって、その方が楽しいじゃない」
あっけらかんと口にして、
お代わりをオーダーする彼女を呆然と眺めながら
とりあえずは、いいかと思った
カズとの事を、このまま内緒にしておくつもりはないけど
時間をかけないと、きっと理解しては貰えない
「これからまた、楽しくなりそう」
「言っとくけどな?
2度とカズに手ぇ出すなよ」
返事も頷きもしない綾子は、
ただ楽しそうに笑って、
意味深な台詞を吐いた
「まぁ…、カズくん次第かしら。
これからどんどんイイ男になるでしょうし。
モテるだろうから」
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