第8章 愛のことば
.
俺を引き寄せた掌は、
周りを振り返りもせず、力強く繋がれたまま
下降するエレベーターでも、始終無言で
普通でない状態の俺らに、異質の眼差しも向けられていたのに
センセは、俺を放さなかった
ようやくそれが解かれたのは、乗りなれた車の側で
助手席に座り、どう話そうかと視線をセンセに向けると
センセはハンドルを握り、身体を預けてる
やたらデカイため息と同時に、肩が上下した
「……ったく。
何なんだよ」
「……センセ?」
ハンドルに腕をついたまま、顔だけこっちを見てて
射るような、色気ある眼差しは、
一瞬で、俺を動けなくする
「ここで離れなかったら、
まじで引き返せないよ?」
「……なに、言ってんのさ?」
センセの言葉に、
張り詰めた糸が切れる
「今さら、それ?」
ふふっと笑うと、
センセが怪訝な表情を浮かべた
だって……オカシイでしょ
「そんなの…
もうとっくにそうなってるよ」
センセだってわかってたクセに
ホント大人はズルいんだから
一番大事な事を、
ガキに決めさせようとする
「ねぇ、センセ?」
「ナンだよ」
「愛してる、って言ってよ」
「え…?いきなりどうした…?」
「いいから」
「……愛してるよ」
やっぱり、センセが言うと絵になるな
ドラマのワンシーンみたい
愛のことばに満足して、センセに腕を伸ばした
首に腕を巻き付け
"僕も"って、可愛く囁いてあげたのに
本気で拗ねた顔されたから、
仕方ないなぁって……
センセを見つめた
「愛してますよ」
.