第8章 愛のことば
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潤んだ瞳からは、
今にも涙が溢れ落ちそうだった
いつも見せる、
強がりな眼差しは今はなくて
こんなに素直に
無防備な顔を見るのは、
初めてなんじゃないかって
「カズ……」
堪らず立ち上がった俺に、
隣に座ってた母親が、
慌てた素振りで声を上げた
「潤っ、
どういうことっ?」
ヒステリックに顔を赤らめて、
それでも、場所をわきまえて必死に抑えようとしてるのが伝わった
正直、罪悪感はある
親不孝だって、わかってる
だけど、それでも
すべてを投げ出して
決断しなきゃいけない時があって……
たとえそれが、
誰にも認められないことだとしても
「……母さん、ごめん」
向かいに座る見合い相手にも頭を下げ、
一歩踏み出した
「帰ろう」
呆然と立ち尽くすカズの掌を掴んで、
周りの視線が刺さるのには気付いていたけど
そんなことよりも、
俺の手に収まる掌が、
こんなに小さかったかなって……
ぐいっと引き寄せながら、
早足で歩いた
周りの事も、
面倒な事も、
全部全部、
考えるのは明日にしよう
今はただ、
ふたりになりたい
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