第7章 単純で曖昧で
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「えらく話違わねぇ?
勝手にやるんじゃなかったのかよ」
「気が変わったのよ。
やっぱりアナタがいないと盛り上がらないと思って」
窮屈なネクタイを、軽く緩め
運転席の横顔を睨む
「後悔したくないでしょ」
「……」
前を向いたまま、
彼女は勝手に話し続けて
「"センセのために"なんて、結局怖いのよね?
のめり込む自分にも、
相手の立場や未来までも奪ってしまいそうな自分自身にも」
膝の上で、掌をぎゅっと握り締めた
もやもやした頭ん中も、心ん中も、いくら考えたって整理出来ない
「あたりまえ……じゃんか。
怖いよ。俺なんかのせいでセンセが…」
俯いたままの俺に、
彼女の小さな笑い声と、呆れたような声が降ってくる
「同じね。
潤も同じこと考えてる。
それだけ想える相手なら、賭けてみたらいいのよ」
「そんな、簡単に…」
「簡単でいいのよ。
答えなんて出ないのに?
明日、何が起こるかわからないのに、
どうして先の事を今から心配するの?」
そりゃそうだけどさ
そんな単純に行動出来る?
「とりあえず、好きなうちはいいんじゃない?
好きなうちから別れるなんて、
結局性別や柵に囚われてるのはアナタ達だけよ」
他人事だから言えんだろ?って思いつつ
定まらない気持ちが、縁取られ
頑なな想いが、少しずつ溶けてく
「ただね。オトナはアナタ以上に、余計な事を考えるの。
たくさんね。
だから、コドモの特権で
ワガママ言ってあげて?」
「ガキだからって?」
「そうよ。無敵だと思うわよ?」
そんな単純でいいのかな
きっと、同じくりかえしになるんだろうけどね
一緒にいる限りさ…?
「アノヒト、
ただでさえ気分屋なのに、
最近特に怒りっぽいの。誘う気にもなれないわ。
早くどうにかして?」
入った事ない有名ホテルへ車は躊躇なく吸い込まれて……
近付く舞台に、
何故か笑いが込み上げた
「誘ったって無駄だよ。
センセは俺の事が大好きで、たまんないんだからさ」
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