第5章 イロナキセカイ
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あたりまえの毎日に戻るだけだ
学校行って、勉強して
部活行って、汗かいて
考えないでいいように、
珍しく、クラスメートの誘いに、のったりなんかして……
「じゃあさ、今度カラオケ行く?」
女子も交えたグループに、
"いいよ"と頷くと、やたら驚かれて、思わず苦笑いした
「なんか…、意外!
二宮くんて人当たりいいわりに、距離感あるから~」
「そう?
基本、ネクラだからね(笑)
こんなんで良かったら、誘ってくれる?」
ニコッと笑顔を浮かべると、変にきゃあきゃあ騒がれて戸惑う
これが普通、なんだろね
うん
きっと、そう
「先生、さよーなら」
「お~、さよなら」
俺の前を歩いてた女子の声
それに応えたセンセの声
近付く姿を、しっかりと視界に捉え
緊張や戸惑いを気付かれないよう、背筋を伸ばした
窓辺から射し込む陽が、センセを包んで
柔らかい空気が、ちょっと切ない
「先生……さよなら」
真顔が、少しだけ崩れ
優しい笑顔が返ってくる
ペコリと頭を下げて、そのまま1歩踏み出す
先生と生徒
正しい関係に戻るだけ
ガキの世話なんてさ
センセは苦しかったんだろ?
すれ違い様に
薬品とコーヒーのニオイがした
しばらくは、消えないだろうけど
努力してみるよ
冬を越して、春が来る頃には
お互い、笑えてるといいな
センセ、バイバイ
そろそろ
解放してやるよ
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