第3章 秘密
練習が終わり、
着替えて部室を出ると、
遠目に見える保健室に、自然と目が向く
薄暗い夕方のグラウンドからは、
明かりの点いた保健室が見えた
……まだ、いるんだな
仕事、残ってんのかな
「…………」
何となく気まずくて
重くなる足取り
ケンカ、したわけじゃない
ただ、俺が勝手に
部屋を飛び出したんだ
だから、
普通にさ?
"センセ、コーヒー!"って、
保健室のドアを開けたらいいんだ
そしたら、きっと
センセはさ?
口元で笑って、
仕方ねぇな、なんて言いながら
美味いコーヒーを入れてくれるはずだ
なのに…
近付いた保健室からは、
話し声が聞こえてて、
聞き慣れた笑い声も響いてる
サクライセンセ、だ
今さら、気にもしてないし、嫉妬なんかするわけない
それでも、今は
ちょっとした不安要素が、何もかもを頑なにさせる
足早に遠退き、
校門へ真っ直ぐに向かうと
赤い車がハザードを点けて停車していて
通り過ぎようとした俺の横で、運転席側の窓が開いた
「おひさしぶり。
カズ…くんだったかしら?」
「……センセなら、
まだ終わんないみたいだよ」
「そうなの?」
待ち合わせ?
待ち伏せ?
考えるような素振り、
赤い唇に当てた指先は、
この前のネイルとは違う
綺麗な紫色
「そうだ。
アナタ、付き合わない?」
「は?なんで、俺が」
「いいじゃない。もう帰るとこでしょ?
送ってあげるし」
「いや、家の…」
「まさか、ママが心配してる、とか言うの?やぁだ可愛い」
ぷっと吹き出して、
明らかに子供扱いした眼差し
「そういうわけじゃないですけど」
「じゃあ、問題ないわね?」
促された助手席のドア
戸惑いさえ見られるのは癪だって思った
「ちょっとだけなら」
面倒臭そうに、ため息を吐いて
助手席側に回った