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【M×N】インターホンはお静かに

第2章 夜の影






「ただいま…」




ドアを開けた瞬間、
その期待は呆気なく宙に消える


何もない玄関に、自分の靴を揃え、リビングに入った





「来てんじゃん」






所々に、アイツの形跡





テーブルのタンブラー

ソファーの上の重なったクッション

リビングの端に並べられたプランター







「もうちょっと早かったら良かったな」




コレでも早めに切り上げたんだけどな……


スーツのネクタイを緩め、
ジャケットを脱ぐと、ソファーに身体を沈める


微かに、アイツの匂いがした






プランター運んで、疲れて休憩…で帰ったか


こんな雨ん中、来たなら泊まってけばいいのに、って


今までの相手になら当たり前に思っていたことも



アイツに関しては、罪悪感に変わる



まぁ…俺が思ってる以上にしっかりしてるし、

ひとりでも大丈夫なのはわかってるけど



会いたくて、大雨の中高速飛ばして帰ってきた俺の気持ちなんか


アイツは気付きもしないんだろな




懐かない猫みたいに、
いつか、俺の腕をすり抜けてくんじゃないかって……


いつも何処かで思ってて




「重症、だな」




自分で可笑しいと思う


2次会を断るのに、
どれだけ必死なんだよって……






"センセ、おかえり。

ホントに帰ってきたの?
どんだけ俺のこと好きなの?"



生意気に口角上げて、
クスクス笑って、からかって……



その笑顔の為だけに、
帰りたかっただなんて……


静まりかえった、
期待に反したひとりきりの部屋は


余計な事ばかり考えてしまう



こんな重い気持ちを、
まだ何も知らないガキに背負わすってどうなの?




母親の薦める見合い話なんか、はなっから受けるつもりもないけど



アイツを想うぶんだけ、意思とは真逆の選択が



一番幸せになれんじゃないかって……




チカチカ点灯するボタンに気付いて、ソファーから立ち上がる



流れるメッセージに、
もしかしたら、アイツが聞いて嫉妬してんじゃないかって


また、都合のいい妄想が頭に過る






気付かないフリをしておこう



狡い大人だって思われてもいいから



アイツが、切り出すまでは





どうか、このままで……









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