第13章 鉄の処女
「ゼロはフォウに個人的な恨みがあるのかい?」
「個人的な?」
「そう、小さい頃、大切にしまっておいた食べ物を食べられたとか、新しく買った着物を汚されたとか」
「ぷっ、あははは……そんなことで殺すんだったら」
ゼロは山姥切の顔を見ると、意味ありげに笑う。
「妹を殺す前に、私が野良猫に殺されているよ」
「……俺は、そんな程度で殺そうとは思わない」
山姥切はゼロと過ごした一年を思い返した。
ゼロに内緒で買った貴重な肉を食われ、お気に入りだったグースの羽根で作った毛布は奪われ、顔を隠すために使っている布は何枚も血で汚されたりと。
数えればきりがない。
苛立ちはするが、殺意まではいかない。
当たり前だ。
むしろ、殺意を抱いても確実に返り討ちにされるのがオチだ。
「特に恨みはない。けど、死ねばいいと思ってる」
「何故!?」
「どこの姉妹でもそんなもんだろ?実行するかしないかの違いで」
「…………」
果たして、そうなのだろうか。
歌仙達は姉妹というものが、とても複雑なものに思えてきた。
ゼロ達は再び黙ったまま雪山を進むが、雪が降り始め次第に雪嵐となる。
周囲はさらに真っ白となり、視界が悪くなるが、それでもゼロは歩みを止めなかった。
「ゼロ、雪嵐が強すぎて前が見えないっ」
「くそっ、視界が悪くて進みづらいぞ」
まるで、ここから先に進むなと警告されているようだ。
雪嵐に視界を奪われ、ついに足を止めようとすると、先頭を歩いていた歌仙が前を指差す。
「ゼロっ!あれだっ!」
「あれが、フォウの飛空艇だ。もう、逃がさない」
ゼロは飛空挺に鋭い眼差しを向ける。
山姥切はゼロの顔を見て、確信した。
彼女は、躊躇うことなくまた妹を殺す。
いつかその理由がわかればいいのに。
山姥切はゼロの横顔を見ながら、柄を握りしめた。