第12章 山の国 Ⅳ
あっという間にゼロは兵士に囲まれ、兵士達はゼロを次々に罵倒しながら武器を向ける。
「裏切り者の審神者を殺せっ!!」
ゼロはどこに行っても、裏切り者だと蔑まれる。
けれど、彼女は顔色一つ変えない。
山姥切は罵倒されるゼロの横顔を見ていると、目が合った。
「……野良猫、歌仙、適当にその辺を薙ぎ払ってこい」
「えっ、適当!?」
「好きなように、好きなだけ倒してこい」
ゼロの言葉に、山姥切と歌仙は困惑した。
好きなように、好きなだけ、とは。
好きで戦っているわけではないのだが。
そう二振りは思ったが、ゼロはそんな二振りの思いなど汲んではくれない。
「さあて、一番良い働きをするのは誰かな?やっぱり一番は……加州清光かな」
「俺、期待されてる?なら、本気出しちゃうよっ」
ウキウキし始める加州とは違い、ふいに順列をつけられた歌仙は不服そうな顔をした。
「言うねゼロ、之定の名は伊達じゃないってこと、思い知らせてあげるよ」
「期待してるよ」
歌仙は抜刀すると、悠然と兵士の群れへと切り掛かっていく。
「…………」
歌仙はいいように乗せられたな。
山姥切は歌仙の背中を見送ると、自分も同じく刀を抜いた。
気付けば数多の兵士に囲まれ、無数の刃が山姥切を狙っていた。
「嫌な空気だな……参る!」
厳しい眼差しを向けると、山姥切は目の前の兵へと迫った。
打ち下ろされる刀を弾き、次の斬撃がきても、素早く体を横にしてかわす。
「斬るっ!」
次々と山姥切は兵を薙ぎ倒していき、その様子を横目で見ていたゼロは満足そうに笑った。
「ゼロ、嬉しそうだね」
「どうかな」
「ゼロっ!フォウ様のために死ねっ!」
ゼロが清光と話していると、彼女の背後から兵士が斬りかかる。
だが、ゼロは一瞬の速さで横に回ると、この一撃を難なくかわした。
「ふっ……ここで一番強いのは、私だな。やっぱり」
ゼロは勝気な笑みを浮かべると、刀を横に振るって兵士に脇腹を斬り倒した。
「一番はゼロ、ま、そうかもねー」
ゼロの周りに出来た血溜まりと倒れた兵士達を見て、清光は呟いた。