第11章 山の国 Ⅲ※※
「息はあるが、かろうじてだ。それに……この指先、酷い凍傷だ……おそらく足も、このままじゃ壊死してしまう」
ゼロが山姥切の手を見ると、指先は腫れて赤黒く変色していた。
「くそっ、なんで勝手に……」
たった一振りでフォウを倒しに行くつもりだったのか。
それとも、ゼロの元を去りたかったからか。
なんにせよ、このままでは山姥切は確実に息絶え、その魂は刀へと還るだろう。
「おい!勝手にいなくなるなっ!!」
ゼロは山姥切の襟元を掴み、傲慢に言い放つと、唇を重ねた。
山姥切を救うには、これしかない。
刀剣男士が息絶えても、その魂は刀に還るだけ。
人の身であった頃の記憶は無くなるが、いつかまた人の姿を得ることが出来る。
本体である刀が無傷であるならば。
だから、死ぬことはない。
死ぬことはない、のだ。
だがゼロは、山姥切が刀に還ることを許しはしなかった。
「もう誰も……私の目の前でいなくなるのは、許さない」
ゼロは山姥切に強く唇を押し付け、硬く閉じられた唇を舌でこじ開け。
歯列をなぞり、舌を絡ませてはねっとりと嬲り、深く深く口付けた。
唇を離すと、口の端から唾液がつたう。
「……っん」
ゼロが指先で唾液を拭うと、山姥切がはっと息を吹く。
頰には、僅かだが赤みが差していた。
「気付いた、か」
山姥切がゆっくりと目を開けると、ゼロは赤らんだ頰を撫でた。
「……な、なんで」
何故、はお互い様である。
「お前に言いたいことは、たくさんある。けど今は……言わない」
ゼロはそう言うと、山姥切の体を横抱きにして、歩き始めた。