第10章 山の国 II※※
「ゼロ、ちょっと来てくれ」
ゼロが加州に何を言えばいいのか考えあぐねていると、歌仙に呼ばれる。
山姥切に何かあったのだろうかと思いながら、ゼロは歌仙の声がする方へと向かった。
「歌仙、どうした……っ?」
大きな岩の横に歌仙は立っていた。
誰かがいた痕跡はあるが、そこに山姥切の姿はない。
その替わり、地面には誰かがが書いたとされる何かが書かれていた。
恐らく、山姥切が書いたものだろう。
だが、その内容は不可解なものだった。
ゼロの何気ない一言が気になる。
大雑把、だが飯が美味い。
笑う、が滅多にない。
寝言が多い。
強い、底無しに強い。
褒めているのか、貶しているのか、ゼロについていくつも挙げ連ねている。
ゼロは声にせずに読んでいたが、最後の一文、それはゼロにとっては衝撃的だった。
「……匂いがする?」
横線が引かれ、消そうとした痕跡があるが、それでも読める。
ゼロは思わず声を上げた。
匂いがする。
匂いってなんだ。
ゼロはしばし黙り込む。
「ゼロ……、俺はわかんないよ」
ゼロに聞かれる前に、加州は気まずそうに言った。
加州がわからないのなら、歌仙に聞くしかない。
ゼロは振り返らず、恐る恐る歌仙に聞く。
「……歌仙、私は匂うのか?血の匂いか?いや……汗?」
「それを僕に聞くのか……。まぁ、雅な香りとは言い難いが……女性らしい香りはするよ?ちゃんと」
「…………」
ゼロは再び黙り込む。
この文面だけでは、何故山姥切が姿を消したのか、ゼロには全く見当もつかない。
否、ここに列挙したこと全てが積もり積もって嫌気がさしたのか。
「なんなんだアイツはっ」
心の中で山姥切に舌打ちすると、ゼロは歩き出した。