第10章 山の国 II※※
「うぅっ……ぐ……」
鋭い爪がゼロの胸元を切り裂き、彼女の手から落ちた愛刀が、地に刺さる。
みるみるうちに胸元は血に染まり、ゼロは膝をつくと、傷に手を当てた。
その手にはおびただしいほどの血が着いていた。
「ゼロ!大丈夫!?ゼロっ!!」
「う……ううあああぁぁぁぁぁっ!」
ゼロが悲鳴にも似た声を上げると、白い光があたりを照らす。
その光景はまるで、ファイブが傷を治した時と同じ。
「な、アレは……」
「これは、審神者の力……」
この光景を見た山姥切は、ゼロが以前言っていたことを思い出す。
審神者を殺せば、相手の力が手に入る。
まさに、今見ているこの力が、そうなのだと。
そう思いながら、山姥切は美しい光を放つゼロの姿を見ていた。
ファイブを殺したことで得た、ときわたりの力。
まだ完全なものではないが、傷を治す程度の力は得たようだった。
胸元の傷はたちまち塞がり、ゼロから放たれた白い光が収まると、ゼロは地に刺さった愛刀の柄を握る。
柄を力強く握りしめ、一気に抜くと、切っ先を天へと向けた。
「終われない……全員、全員倒すまでは。終われない」
「ゼロ……」
天を仰ぎながら、ゼロは言い聞かすように呟く。
ゼロは、彼女自身の血に染まっても、戦いをやめない。
全員、倒すまでは。
ゼロは愛刀を鞘に納めると、再び神殿へと歩を進めた。