第9章 山の国 I
歌仙と山姥切は次々に兵士達を倒していく。
大砲や銃を物ともせずに戦い、その姿に兵士達は刃を交える前に戦意を喪失していった。
「もう、ワシらの力では……」
「ぐっ、アレを使う時が来るとは」
老兵が笛を鳴らし、兵士達は一気に退却する。
すると、地を揺らすほどの大きな咆哮が辺りに轟いた。
「くっ、厄介なのが出てきたな」
現れたのは、三つの頭と蛇の尾を持つ生き物、ケルベロス。
審神者の歪んだ力によって生み出された、醜悪な生き物だ。
「ケルベロスかぁ、どうするんだい?」
「どうもこうもない。邪魔するヤツは殺す」
「そう言うと思ったよ。うわ……なんて粗野な顔、同情するよ、ケルベロス。容赦はしないけどね」
歌仙もゼロに続いてケルベロスに対峙するが、巨体に似つかわしくない速さに、急所を見定められずにいた。
ケルベロスは三つそれぞれの口から青い炎を放ち、ゼロ達が近寄るのを阻む。
「ゼロ、一人で苦戦してる?苦戦してる?」
「清光、随分と嬉しそうだな。私が苦戦しているのが、そんなに嬉しいか?」
「んー?やっぱり、俺がいないとダメみたいな?そんな女の子らしいとこ、見たいじゃん?」
ゼロが女の子らしかった頃は、どのくらい前のことだったろうか。
この世界に降りたばかりの頃か、審神者に成り立ての頃か、はたまた産まれたばかりの頃か、記憶にない。
いや、ゼロとの初夜がそれに当てはまるかもしれない。
そんなことを考えている加州など、御構い無しにゼロはケルベロス目掛けて斬りかかる。
「せやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「せめて雅に散れっ!」
ゼロが右の頭を、歌仙が左の頭を切り落とす。
頭が残り一つとなったケルベロスは後ろに飛び退くと、ゼロ達に向けて吠える。
そして、大きく跳躍して山へと逃げて行った。
「あんな犬に、私が苦戦すると?私一人で充分だな」
勝ち誇った顔をするゼロ。
そんなゼロに加州は呟く。
「ゼロなんて、嫌いだ」
「拗ねるなよ。お前がいなければ……私は戦えないさ」
意地悪だけど、時折ゼロは甘い言葉を口にする。
加州はゼロのそういうところも好きだ。
加州はゼロの言葉が嬉しくて、これ以上拗ねるのはやめておくことにした。