第9章 山の国 I
「大砲と兵士だらけだな、とにかく蹴散らせ!野良猫、歌仙を援護しろ」
「だからっ、野良猫って言うな!!」
「山姥切、頼んだよ」
舌打ちをし、不快感を表情に出してはいるが、それでもゼロの言う通りに歌仙の援護に回る。
山姥切の真意はどこにあるのだろうか。
歌仙はひとつの可能性を考える。
それならば面白い、そう思ってくすりと笑った。
「こんなもので私が倒せると、本気で思っているのか?」
ゼロは大砲目掛けて走り、いきなり刀を抜いて大砲の前に躍り出た。
口を開かなければ、雪のように白く、鮮やかな朱色の唇を持つ、整った顔のゼロだが、刀を持ち返り血に染まった姿は鬼神のようだ。
ゼロの凄まじい迫力に恐怖し、兵士達は戦意を失っていく。
「強い……」
「くそ、あんな審神者がいるなんて……」
「フォウ様とはえらい違いだ」
ゼロが指揮官を斬り倒すと、大砲を構えていた兵士達は退却していく。
だが、今度は銃を構えた兵士が入れ替わるようにしてゼロ達目掛けて進軍を始めた。
「銃を構えろっ!フォウ様が逃げ延びる時間稼ぎになれば幸いっ!」
「深追いはするな、相手は審神者だ」
大砲を片付けたら、次は銃。
山の国は武器の種類も豊富らしい。
ゼロは、刀が主だった海の国海軍との戦いが懐かしく感じた。
「どれだけ厳重に守られているのかな、審神者様は」
「審神者って全員そうだよね。過剰に勿体つける。あ、すまない。ゼロも審神者だったね、一応」
「一応ってなんだ?どの口がそういうことを言う?」
「あはははっ!ゼロ、敵、敵!」
歌仙は相変わらず、随分と生意気なものだ。
だが、憎まれ口を叩きながらもやるべきことはやっている。
銃に臆することなく、間合いを詰めると刀の柄に手をかける。
優美ながらも、速いその所作は実に歌仙らしい。
「すまないね。主の命だ、首を差し出せ」
刀をすらりと抜き、歌仙は対峙した銃兵を袈裟斬りした。
銃ごと斬りつけられた兵士は血飛沫をあげて崩れ落ちる。
他の銃兵達は青ざめながらも歌仙に銃口を向けるが、これも歌仙は瞬時に斬り倒していく。