第9章 山の国 I
ゼロと行動を共にしている山姥切国広は、ゼロの近似である。
歌仙は最初、そう思っていた。
だが彼は、特定の主を持たないはぐれ刀剣男士だった。
なら、何故山姥切がゼロと行動を共にするのか。
それが不思議で仕方がなかった。
審神者の気配を感じ取れるから、山姥切を手元に置いている。
そうも思ったが、ゼロの山姥切への扱いは実に乱暴だ。
山姥切を名前で呼ぶこともなければ、手入れもしない。
ゼロの考えていることは、不可解だ。
歌仙はゼロの背を見ながら、新しい主について考えていた。
「あぁ、疲れたな。いつまで続くんだい、この山道?」
なにせ、ひたすら山道、山道、山道を歩いてばかりなのだ。
考える時間が嫌でも有り余っている。
「ファイブの夜の相手に比べたら、マシだろう?」
ゼロもまた、ずっと山道を歩いているというのに、彼女は息一つ乱さない。
「それはまた、別の話だよ。彼女、毎晩色んなことを試させてくれたからね。それはもう、毎晩毎晩……」
「お盛んなことだ。歌仙、お前が色々試して注ぎまくったせいで、アイツが強欲になったんじゃないか?」
「うわ、ゼロ、それ言い過ぎ。歌仙が可愛そうだよ」
ゼロは意地悪そうに歌仙に言うと、歌仙はゼロを一瞥した。
ゼロと歌仙の間に、不穏な空気が流れる。
「ためすって……なにをだ?」
「お前は知らなくていい」
山姥切は不穏な空気に気付くことなく、ゼロ達の会話に入ろうとしたが、ゼロにピシャリと締め出される。
一体、毎晩何を試していたのか。
閨事とは未だ無縁な山姥切は首を傾げる。
すると、再び道の先に兵士達の姿が目に入る。
「ゼロが来たぞっ!刀剣男士も一緒だっ!!」
「裏切り者めっ!毒女側に寝返るとはっ」
「装填っ!撃て撃てぇっ!!」
ゼロ達を待ち構えていたのは、大砲を構えた兵士達。
彼らはゼロ達が射程距離に入るや否や、次々に大砲を撃ち始めた。