第9章 山の国 I
「フォウめ、こんなたいそうな秘境に住む身分かっ!?一体どんだけ山奥に進ませるんだ!」
「全くだ。いつまで続くんだい、この山道?」
「はぁあ……眠いよなぁ……さっきから山道進んでばっかり」
山道を進み、さらに山道をひたすら進み、ゼロが叫ぶ。
大人しくしていた加州もついに飽きたようだ。
「……文句ばっか言うな」
先頭をきっていた山姥切は振り返ると、呆れた眼差しを向ける。
「そうだぞ歌仙、文句ばかり言うな」
「ゼロ、君って人は……」
歌仙はゼロを一瞥するが、そんなことなど御構い無しのゼロ。
すると、山道の向こうから十数人の兵士が現れる。
「いたぞっ!ゼロだ!!」
血気盛んな山の国兵士たちは、抜刀しゼロ目掛けて切り掛かかろうとする。
「よし!いい加減退屈していたとこだ!張り切っていくぞ」
「ゼロがやる気なら、俺も頑張っちゃうよっ」
さっきは、うじゃうじゃいる兵士に文句を言い、兵士がいなくなれば、山道がどうとか文句を言う。
上機嫌で突っ込んで行ったゼロの背に、山姥切は呆れた眼差しを向けた。
「おやおや、あんなに急いで斬り込みに行かなくてもいいのに。せわしないなぁ」
「歌仙、お前は行かないのか?」
「そうだね。僕も一応、あの無作法者の刀剣男士だからね。彼女に遅れを取りたくはないな」
歌仙は抜刀すると、猛然と前に出る。
「我こそは之定が一振り、歌仙兼定なりっ!」
気合いと共に刀を振るい、打ちかかっていった。
「せめて雅に散れっ!」
気合いと共に刀を振るい、ゼロに負けじ劣らずの速さで相手の懐に飛び込み、腹を斬ってすれ違う。
兵士達は次々と腹を押さえてよろよろとその場に倒れこんでいく。
「俺が相手だっ!!」
ゼロ達の凄まじい剣戟に恐れをなす兵士の中、一人だけ臆することなく立ち向かう者がいた。
その男は、ひと際大柄な大太刀を手に、歌仙目掛けて斬りかかる。
「おやおや、その構え、雅さの欠片も見当たらないね」
大柄な男は大太刀を振り上げ、歌仙に斬り込む。
歌仙は冷ややかな笑みを浮かべ、これをかわす。