第9章 山の国 I
「期待してるぞ、野良猫」
「俺が知ったことか、とにかく進めばいいんだろ」
不機嫌そうな顔をし、渋々ながら歩き出す。
山姥切は内心、どうしたものかと思っていた。
期待しているとゼロに言われ、不本意ながら心が跳ねた。
ファイブを倒し、ゼロへの借りは無くなったはずだ。
だが山姥切はゼロから離れることはなく、ゼロもまた何も言わない。
ゼロに必要とされているのでは。
そんな淡い期待があった。
だからこそ、期待されていると言われて山姥切は嬉しかったのだ。
だが、その反面で歌仙の存在が山姥切の心に暗い影を落としていた。
「山道に兵士に、さっきから戦ってばかりだ。ゼロ、君は疲れないのかい?」
「疲れるよ。おまけに生意気な男士も増えたしな」
「言うね……無作法者」
「殺すぞ、悪趣味」
ファイブの刀剣男士だった歌仙兼定。
ファイブを殺し、残された歌仙を、ゼロは自分の刀剣男士にした。
躊躇うこともなく、当然のように。
何故。
歌仙がゼロの指輪に口付ける瞬間、そう思ってしまった。
干渉しないと言ったのは、他ならぬ自分だと言うのに。
次第にモヤモヤしていく山姥切の背後では、ゼロと歌仙が互いに嫌味を言い合っている。
その様子にすら、山姥切は苛立つ。
「こんな山道を歩いていたら、筋肉ついてムキムキになってしまうよ。僕は文系だから、そういう体、生理的に受け付けないんだよね。自分の体でも、お相手の体でも」
「喋る元気があるなら、アイツを見習って、さっさと歩きなさい」
ゼロに叱られる歌仙を見て、山姥切はほんの少しだけ笑ってしまった。
ざまあみろ。
そう少し思ってもバチは当たらないだろう。
山姥切は彼らを背に再び歩き出した。