第9章 山の国 I
山の国。
広大な土地だが、人が住めるのは山の国神殿と、その付近にある小さな集落のみ。
フォウが潜伏していると思われる山の神殿へ向かうには、陸軍が築いた要塞を突破する必要があった。
「ゼロだ!!
「総員、防御態勢を取れっ!」
「ここは通させんっ!」
「なんか暑苦しいのが出てきたね」
国境を越え、山道を少し進んだだけでも兵士に遭遇してしまう。
ゼロは刀の鯉口を切った。
兵士達は抜刀しゼロ達に向かっていたが、ゼロから滲み出る殺気に、思わず立ち止まる。
「おらぁっ!!」
「ぐっ、がぁ……」
刀を抜き、音もなく兵士達とすれ違う。
途端、兵士達は呻き声を上げて倒れていく。
倒れた者全員が腹を斬られている。
「命が惜しければ、私の邪魔をせず消えろっ!」
瞬時に数人倒したゼロの凄まじさに、残りの兵士達は慄き、刀を捨てて逃げ出した。
「それでゼロ、神殿はどこにあるんだい?」
「知りません」
「はっ!?」
目を丸くする歌仙を横目に、ゼロは血振りして刀を鞘に収めると、さも当然の如く言い放つ。
「この国に来たのは初めてだ。その私が神殿の場所を知るわけないだろう?」
「じゃあ、本当にこっちの道で合っているのかどうかも……」
「知りません」
「最悪だ、何なんだそれは」
歌仙が顔を歪める。
「あぁ……急に足が重くなってきた」
「軽くしてやろうか?」
「遠慮しておくよ。嫌な予感しかしないからね」
顔をしかめる歌仙に、ゼロが言う。
「まぁ、手がないわけじゃないよ。なぁ野良猫、フォウはどこにいると思う?」
「何故、俺に聞くんだ?俺が分かるわけ……」
「分かるよ。いや、感じるはずだ。野良猫、はぐれ刀剣男士は審神者の気配を感じ取れるんだ。刀剣男士と審神者は引かれ合うものだからな」
ゼロの言うことが事実なら、はぐれ者は無意識に主を求めているから引かれるということなのだろうか。
なら、初めてゼロに会ったのも偶然ではなかったということになる。
「いい加減、野良猫と呼ぶな……」
山姥切は改めて自分の知識の乏しさに嫌気がさすが、知ってて何も話さないゼロにも苛立ちを覚えた。