第8章 借りを返しに
「こ、これが……審神者……?」
再びファイブを見ると、血だらけになってはいるが、その体は傷一つ負ってはいなかった。
これが審神者の力、ときわたり。
時間を操り、瞬時に傷を回復させる力。
ファイブは勝ち誇った笑みでゼロ見ると、再び槍を手にし構えた。
また、稲妻のような突きがくる。
そうゼロが身構えた瞬間、彼女の顔に血が飛び散った。
「ぁ……あ、そん……な」
ゼロは目に血が入り、とっさに目を閉じる。
次に目を開けた時、目の前にいたファイブの胸元から金色の刃が突き出ていた。
ファイブは血汐を撒き散らし、胸を刀で貫かれていた。
「…………」
ファイブの体を貫いたのは、彼女の近侍の歌仙だった。
「主……醜く生き足掻くのは、雅じゃないよ」
体を貫いた刀を引くと、ファイブは後ろへと崩れ落ちる。
血溜まりに体が倒れ、ぐちゅりと音を立てた。
「日に日に強欲になっていく貴女を見るのはツラかった、ツラかったよ。奥ゆかしい少女だった貴女が、淫売な雌に成り果てていく様を、もう見ていたくはなかった……」
血に染まっていくファイブを前に、歌仙はほろほろと涙を流した。
「僕の理解者だった頃もあったのに、もう…………おや?」
ふと、歌仙は口元に手を当て、首を傾げた。
「僕の主は、なんて名前だった、かな……」
つい先程まで仕えていたというのに、歌仙は本当に思い出せないかのようだった。
その姿を、ゼロはただ黙って見ているだけだった。