第8章 借りを返しに
主に忠誠を誓っているはずの近侍が、審神者を殺した。
その光景に山姥切は何も言えず、ただ黙って見ているだけだった。
すると、息絶えたファイブの体から黒煙があがる。
「な、これ……は」
やがて、ファイブの体はすべて煙となって消え去ってしまう。
残ったのは血溜まりだけ。
その中に、キラリと光るものがあった。
血で汚れてもなお光る、銀色の指輪。
ゼロは無言で血溜まりに手を伸ばすと、それを拾い上げる。
「それはなんだ?」
「これか?紋付鈴だよ。そこにいる歌仙兼定のな」
紋付鈴。
刀剣男士が顕現した時に必ず持っている、自分の紋が彫られている鈴。
通常は、顕現時に主へ献上する。
山姥切も持ってはいるが、はぐれ者の彼は、懐に入れたままだ。
だが、山姥切が知っている紋付鈴は、その名の通り鈴の形をしている。
そのような指輪は見たことがなかった。
「指輪に形を変えて持っていることも出来るんだよ」
ゼロは指輪についた血を拭うと、自らの指にはめる。
「歌仙兼定、お前が仕えていた審神者は死んだ。お前の主は、私だ」
「雅さの欠片もない無作法者が、僕の主か……」
「その言葉、いつか後悔するぞ」
ゼロは歌仙に左手を差し出した。
歌仙は眉間に皺を寄せ、渋々ながら跪く。
「歌仙、私のもとにいれば、毎夜退屈はしないよ」
「……僕は文系なんでね。お手柔らかに。まぁ、気が向いたらだけど」
ゼロの手をとり、その指にはまる指輪に口付けた。
歌仙兼定。
この瞬間、風流と閨事を愛する自称文科系名刀が、ゼロの刀剣男士となった。
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