第8章 借りを返しに
「どうした野良猫、息が上がってるぞ?まったくだらしのない」
「お前みたいな体力馬鹿と比べるな!」
「あ?なんだって?全く聞こえないな……もういっぺん言ってごらんなさい。あぁ?」
ゼロは眉をひそめ、力一杯に山姥切の腕を掴む。
「痛っ、痛っ、痛っ!爪を食い込ませるなっ!!」
「煩い。大人しくしてろ」
掴んでいた腕を引き、ゼロは山姥切に体を寄せる。
「な……っ」
山姥切は息を呑んだ。
ゼロは空いている左手で山姥切の顔に手を添えると、背伸びして山姥切の耳を甘噛みした。
山姥切はその一瞬で血が滾るような激情に駆られ、体が熱くなるのを感じた。
「ふっ……感じたのか?」
耳元で囁かれ、山姥切は体をびくんと震わせた。
急に何故、何の嫌がらせなのか。
山姥切はそう言おうとしたが、動揺したせいで上手く言葉が出てこない。
その様子にゼロは満足そうに笑うと、再びファイブの方へ斬りかかっていく。
「アイツ……っ」
ゼロに噛まれた左耳が、熱を帯びているのがわかる。
戦いの最中になんて事をするのだろうかと、山姥切は理解に苦しむ。
だが、先程まで感じていた腕の重さや、擦り傷すら消えていることに気付き、山姥切は舌打ちした。
「別のやり方はないのか……」
これがゼロの優しさなら、正直身が持たない。
山姥切は耳に触れると、雑念を振り払うように再び刀を構えた。