第8章 借りを返しに
女が扱っているとは思えないほどの速さで、ファイブは何度も槍を突き上げる。
息一つ乱さず、正確に急所を狙う軌道。
確実に、ファイブは一年前よりずっと強くなっている。
悔しいがゼロはそれを認めざるを得なかった。
「他のお姉様はもう、イっちゃったのかしら」
「まだだよ、君を一番に始末しに来た」
「嬉しい!ゼロお姉様がわたくしに一番に会いに来て下さった!!」
「一番馬鹿から始末した方が早いからね」
ファイブが使う槍は長すぎる。
間合いが広いゼロだが、それ以上に槍の間合いの方が広い。
だが、近接戦闘に持ち込むことが出来ればゼロが有利になる。
ゼロは隙を見つけるべく、ファイブの攻撃を慎重に見据えた。
「はぅん!いじめちゃいや」
「いじめないよ、殺すだけだ」
ファイブの攻撃を避けるだけのゼロ。
見た目にはファイブが圧倒しているように見えるが、ゼロは待っていた。
確実に攻撃できる、一瞬の隙を。
「あまり、本気は出したくないんだがな」
ゼロは刀を上段に構えると、ファイブ目掛けて真っ向から斬りつけようと前へと大きく跳んだ。
「ゼロ……お姉様っ!?」
ファイブが槍を突き出す瞬間、ゼロは大きく刀を振り上げて攻撃する。
だが、それは見せかけ。
攻撃すると思わせ、ゼロは巧みに槍をかわして彼女の前を横切ると、ファイブの左側に回り込む。
槍を突き出したほんの一瞬、槍を引き戻す僅かな間だけ、脇が無防備となる。
その一瞬をゼロは見逃さず、ファイブの脇腹をすかさず斬りつけた。