第8章 借りを返しに
「全部、加州清光もお姉様も、全部わたくしのモノに……っ」
「はははっ、キミの言葉を聞いていると、耳が腐るよ」
「はぅん!本当にお姉様の物言いは乱暴……そこが好き。だから、殺す!」
ファイブは両手を胸の前で広げると、円舞場上空に光が満ちる。
すると、控えていた近侍が声高に叫ぶ。
「海の国におわせし、第五の審神者、ファイブ。神罰が彩る断罪の槍を手中に納めし主の力、その目に灼きつけん。
我こそは之定が一振り、歌仙兼定なり!」
歌仙が戦いの祝詞を詠むと、上空に満ちた光はやがて無数の黄金の槍に変わる。
槍は一振りだけファイブの元に降ると、やがてそれは、梵字が刻まれた長い槍となる。
ファイブはその槍を握り締め構えると、残りの槍は一気にゼロ達の頭上へと降り注いだ。
「くそ、挨拶のつもりかっ!厄介な技だなっ」
ゼロ達はそれぞれ刀でこれを弾くと、弾かれた槍は消えていく。
「ゼロ、我が主ファイブ様のため、せめて雅に散れっ!」
歌仙が刀を抜き放つと、その白刃が黄金色の光を帯びたかのように輝く。
その光景は幻想的なものだったが、その様子を見ていたゼロは呆れ顔で溜め息をついた。
「……悪趣味で死にそう」
そう、ゼロは気怠げに呟く。
「あれが……審神者?」
山姥切はこの時、ゼロ以外の審神者を初めて見た。
ファイブもゼロのように強い気を放っているが、山姥切が驚いたのはそこではない。
髪や瞳の色、体つきも違ってはいるが、顔立ちはゼロとそっくりだ。
さすが姉妹と言うべきなのか。
山姥切はゼロによく似たファイブに刀を向けられるか戸惑う。
「野良猫、お前は歌仙兼定を足止めしろ。私と加州はファイブを仕留めるっ!」
山姥切の胸の内に気付いたのか、ゼロはそう言い残してファイブへと斬りかかって行く。
その後ろ姿を山姥切は複雑な気持ちで見ていた。
自分によく似た妹を殺す。
その行いは、まさに鬼畜。
そこまでして、何故ゼロは戦うのか。
ゼロが何を考えているのか、知りたい
そう思い至ったところで、山姥切はかぶりを振る。
今は余計なことを考えてる場合ではない。
山姥切は歌仙に向き合うと、斬撃の構えをとった。