第8章 借りを返しに
石造りの橋をひたすら進み、その先は円形の建物まで続いていた。
闘技場のような開けた場所に出たゼロは、周囲を見渡す。
石造りの建物は所々朽ちてはいるが、今も使われているのか、地面には乾いた血の跡が残っていた。
「お久しぶりです。お姉様」
頭上から声を掛けられ、ゼロが見上げた先には、ファイブがいた。
闘技場内を一望できる高い場所にいるファイブは、片脚に重心をかけ。、手を腰にのせて立っており、自信ありげな笑みでゼロを見下ろしていた。
そして、その後ろにはファイブの近侍である刀剣男士が控えている。
「元気そうだねぇ。ファイブ。審神者の力で洗脳された、ザコ共に囲まれた王女様気分はどう?」
「はぅん!そのトゲトゲしいお言葉……ゼロお姉様もお変わりないようで」
胸元が大きく開いた服を恥ずかしげもなく着るファイブは、話すだけでも、見ているだけでもゼロを苛立たせる。
ゼロはその胸元に刀を突き付けたい衝動に駆られた。
「そうだ、ちょっと君に返すものがあって」
「あら嬉しい。でも、お貸ししていたものなど、ありましたっけ?」
「一年前の……借りをね」
「はぅん!そうでしたわ。あの頃のお姉様はジュンとくるほどお強かった……でも、もう違う。最強の刀剣男士、加州清光はイッた。ゼロお姉様に遺されたのは、抜け殻になったその加州清光だけ」
ファイブの言葉に、ゼロはギュウッと拳を握り締める。
「でも……その加州清光もわたくしのモノにして差し上げてもよろしくってよ?」
「えっ?」
話を聞いていた加州も、流石に動揺したようだ。
加州清光はゼロの唯一無二の初期刀。
何としても、ファイブに負けるわけにはいかない。