第7章 海の国※
「あれ?ゼロおかえり。案外早かったね?今夜は戻ってこないと思ってたよ」
「……私の隣は、お前の特等席だからな」
バタンと乱暴に扉を閉め、ゼロは羽織っていた上着を無造作に脱ぎ捨てた。
「なんか、怒ってる?山姥切となんかあったの?」
「なにも」
何もというが、その声音は明らかに怒っている。
だが、加州にはゼロが怒る要因が思い浮かばなかった。
山姥切がゼロを怒らせるとは、考えにくい。
「本当に何も、なーんにもなかったよ。アイツがぶっ倒れてイッたこと以外はな」
「……は?なにそれ、よくわかんない」
ゼロは、面倒なことは適当に掻い摘んでしか話さない。
だから、聞いても無駄だ。
とりあえず、何もなかったようで、何かはあった。
そのくらいしかわからない。
「わからなくていいよ。とにかく今夜は寝る。お前も、もう寝ろ」
ゼロはさっさと寝支度を整えて、蝋燭の灯りを消す。
ベッドの隣にいる加州に触れると、すうっと寝息を立て始めた。
「あーあ、寝ちゃった。けど、いっか。ねえゼロ、俺さ……」
愛している。
加州はそう呟いた。
その呟きは、寝入ったゼロに届くことなく、夜の闇に消えていった。