第7章 海の国※
一年後。
ここは、水の国。
この国にある山姥切国広の隠れ家で、ゼロは戦いの傷を癒していた。
はぐれ者と呼ばれる主を持たない刀剣男士の山姥切は、彼の隠れ家で共に生活するゼロを追い出すわけでも、煩わしがる様子もなかった。
余計な詮索をするわけでもなく、一定の距離を置いて接していた。
そして、夕方に隠れ家を出ては、夜更けに傷だらけになって戻ってくる。
そんな山姥切に、ゼロもまた余計な詮索はしなかった。
今日、までは。
「もう一年も経つというのに、まだあの時の夢を見るよ……清光」
ゼロは夜の闇に染まった空を窓越しに見ながら、ポツリと呟く。
「傷はもういいの?」
「あぁ、傷を癒すのに一年もかけたからな。完全に治った」
「ふーん、もっとゆっくりしてけばいいのに。それで……山姥切は?連れてくの?」
「アイツには世話になった。私も、お前もな。けど……」
ゼロは今、どのような表情をしているのだろう。
そう思っても、加州からはゼロの表情をうかがい知ることは出来ない。
「野良猫は必要以上に干渉はしない。それがアイツのルールだし、アイツも私を選ばないさ」
「ゼロ、本気でそう思ってる?」
ゼロは窓の外に目的のものを見つけると、上着を羽織る。
「…………清光、今夜は先に寝ていろ。私はアイツと話してくる」
「はーい」
すたすたと歩いて部屋を出ていくゼロの背を加州は見送る。
バタンとドアが閉まり、部屋に加州だけが残された。
「ゼロ、誰だって本当の気持ちは言えないんだよ。俺やアイツも、ゼロだって……」
言わなきゃ伝わらないのに、大切なことは口をつぐんでしまう。
不意にゼロがまだ審神者になりたてだった頃の姿が脳裏に浮かぶ。
少女でありながら審神者という責任を背負っている彼女は、正しい歴史を守るため、時には困難な決断さえ下さねばならない。
強くなりすぎた少女が、本当の気持ちを言わなくなるのに、そう時間はかからなかった。
「全て言えたら楽なのに」
誰もいなくなった部屋で、加州は一人呟いた。