第6章 雨の中で I
審神者を一目見ようと、教会都市に来た山姥切国広は、途中言いようのない何かを感じ、引き寄せられるように廃墟を訪れた。
そこで、偶然彼らを見つけてしまった。
その出で立ちを見ればすぐわかる。
山姥切国広と同じ、刀剣男士だ。
相手もそれがわかったのか、山姥切を見た瞬間に刀を抜き、構えた。
「そこから一歩でも進んでみろ、命は無い!!」
降りしきる雨の中、傷だらけの男が刀を手に叫ぶ。
山姥切は刀を抜くつもりはなかったが、相手に応じて腰を落とし、居合の構えをとった。
相手の男の背後には、女が横たわっていた。
彼女の服はボロボロで、いたるところに傷を負っている。
意識が無いのか、その瞳は固く閉じられていた。
だが、山姥切はそれでも一目でわかった。
彼女が、審神者だということを。
命の火が消えようとしていても尚、その体から発せられる強い気。
惹きつけられるその強い力に、山姥切は息を呑む。
「…………」
懐に入れてある紋付鈴が、チリんと鳴ったような気がした。
同時に、山姥切の心がざわつく。
目の前の男は無数の傷を負い、今にも力尽きようとしているのに。
それでもまだ、戦おうとしている。
もう、充分じゃないか。
放っておけば、そこの女は死ぬ。
審神者の持つ力、主という存在に縛られ、戦いから逃げられないのだろうか。
「お前は、主のためなら命も惜しまず戦うというのか?」
いくら人の形を持っていても、己の意思を持たないのなら、人形にしか過ぎない。
なら、主を持たないはぐれ者の方が、彼らより優れているのではないか。
はぐれ者である山姥切はそう、思いたかったのだ。
「何故、そんな体になっても守ろうとする?主という名の枷に、縛られているだけなんじゃないか?」
「違う!主のために戦うとか、主だから守るとか、そんなんじゃない!!」
だが、山姥切の考えは打ち消される。
「俺が、彼女を愛しているから……。だから、俺が戦って守ると決めたんだ!」
審神者だから、主だから。ではない。
そこに力無く横たわる女を、愛していると。
だから彼は、自分の意思で戦うのだという。
「…………そう、か」
男の意思の強い瞳を見て、山姥切の心にはある二つの思いが横切った。
羨ましい、と。
そして、そう思わせる彼女はどんな女なのであろうかと、半ば陶然としていた。