第6章 雨の中で I
雨の中、どのくらいの間見合っていただろう。
加州は意識のないゼロを背に、相手から目を逸らさずにいた。
加州とゼロは、鶴丸国永達との戦いの最中、その場から逃げる事には成功した。
だが、橋から落ちた際にゼロは全身を強く打ったのか、意識がなかった。
人気の無い廃墟に彼女を運び、ゼロの回復を待っていると、突然彼が現れた。
加州と同じ、刀剣男士。
布を纏っていたから、山姥切国広だと一目でわかった。
彼が、はぐれ者だということも。
山姥切もまた、ゼロを狙っている可能性もある。
加州が構えると、相手も構えたが、何か様子が変だった。
主のために戦うかなど、いくつか質問され、加州は率直に答えた。
すると山姥切は長い沈黙の後、たった一言呟いた。
わかった、と。
そして、彼は刀を鞘に収め。加州に背を向けた。
「俺はお前達に干渉するつもりはない。ここでの目的は達した。俺は自分の寝ぐらに戻る。ついて来るかは、勝手にしろ……」
そう言うと、彼は加州達を残してスタスタと行ってしまった。
こちらがまだ刀を構えているというのに、背中を見せるとは。
加州は呆気にとられ、刀を構えたまま山姥切の背中を見ていた。
「……?」
少し、加州達から離れたところで、彼はふと足を止めた。
そして、こちらを少し振り返ったかと思えば、また歩き出す。
何だろうと加州が不思議に思っていると、再び立ち止まっては振り返り、また歩き出す。
「まさか……ねぇ」
何度も立ち止まっては、振り返る。
最初は不思議に思ったが、こう何度もされると流石に気付く。
「干渉しないって、言ってたよねぇ……」
加州は刀を納めると、未だ意識の無いゼロを抱える。
「あーもーゼロ、重い。途中で力尽きたらどうしてくれるんだよ」
返事すらないゼロに、加州は一人ゴチると、山姥切の方へと歩き出した。
彼はその様子を確認すると、そこからはさして何度も振り返ることはなかった。
彼ら二振りはそれから、お互いに言葉も交わすこともなく、ただ長い、長い道のりをひたすら進んだ。
ひたすら歩いては野営し、また進む。
そんな日が幾日も続き、彼らが辿り着いたのは、豊富な水と緑に囲まれた国、海の国だった。
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