第16章 飛空艇 Ⅱ※※
布を被ってはいるが、上半身裸の山姥切を見ても、ゼロは顔色一つ変えなかった。
この様子では、うっかり名前を呼んだことも気にしていないのだろう。
そのことに、山姥切は少なからずモヤっとした。
「……着替え中か?」
「いや、違う……」
傷の手当てをしていた。
そう、素直に言えない。
山姥切は何も言えず黙り込んだ。
「…………」
互いに黙り込み、室内が不思議な静けさに見舞われる。
何か言わなくては。
そう思うほど、山姥切は何を言ったらいいのかわからなくなる。
「どうやら邪魔したみたいだな。またあとにするよ」
静寂を打ち消したのは、ゼロの方だった。
またと片手を上げると、ゼロは踵を返す。
山姥切はハッと顔を上げた。
「…………っ!」
部屋を出ようとするゼロに、山姥切は愛刀が握られていないことに気付く。
いつも側にある加州清光が、今はいない。
山姥切はゼロを引き止めるように、彼女の腕を掴んだ。
「……どうした?」
ゼロは振り返ると、山姥切の顔を覗き込む。
「……あ、……っ」
何故、引き止めたのか。
山姥切は自分でもよくわからなかった。
「私に、出て行って欲しいんじゃないのか?」
今、ここにいるのは、山姥切とゼロだけ。
もしゼロがこの部屋を出ていけば、彼女はどこへ行くのだろう。
きっと、彼女の男士の部屋へ行くのだろう。
その考えが頭を過ぎり、息苦しさにも似た、嫌な心地がする。
「何も言わないと、わからないよ」
何を言えばいいのか、わからない。
山姥切はただ、小さく首を振った。