第16章 飛空艇 Ⅱ※※
朝食を食べ終えたのち、山姥切国広は飛空艇の部屋へと戻っていた。
上半身だけ着物を脱ぎ、傷の確認をすると、傷に薬草を塗りつける。
ゼロに手入れをしてもらえば済む話だが、山姥切は未だに自分から手入れを頼もうとはしなかった。
なのに、歌仙や一期一振が彼女に手入れをされていると思うと、心の何処かがモヤモヤする。
「…………」
山姥切はため息を着くと、ベッドに倒れこんだ。
そういえば、彼らは今頃どうしているのだろう。
刀である加州清光がゼロの近侍だと知り、彼女の刀剣男士である歌仙や一期一振は驚き、動揺していた。
彼らは刀剣男士だった加州清光のことを知っているようだった。
山姥切も少しだけ驚きはした。
あの刀が加州清光だとは知ってはいたが、驚いたのはそこではない。
ゼロには、加州清光の声が聞こえている。
その事実に。
ゼロは確かに、加州清光に話し掛ける素振りを何度も見せていた。
けどそれは、加州清光を失ったゼロが、そのことを認めたくてしている行為だと思っていた。
だが、会話をしていたとは。
あの加州清光には、山姥切の知っている加州清光なのか。
それとも、記憶を全て失った加州清光なのか。
出来れば前者であってほしい。
そうでなければ、ゼロはさぞ悲しんだだろうに。
「…………」
干渉しないと言っていたのに、気付けばゼロのことばかり考えている。
山姥切は再びため息をついた。
そのとき、ガチャリと音がして部屋の扉が開く。
山姥切はハッとして、体を起こした。
「……っ!ゼロ!?」
しまった。
思わずゼロを呼んでしまった。
ゼロが山姥切の名を口にしないのと同じく、山姥切も彼女の名前を口にしないようにしていた。
呼んだら、なんだかゼロに負けたようで、悔しいから。
しかし、時々うっかり口にしてしまう。
ゼロはそんなこと気にしていないのか、気付いていないのか、彼女の表情は変わらない。