第15章 雨の中で II
その日のことは、山姥切国広は今でも覚えている。
ずっと、忘れられないのだ。
加州とゼロが山姥切国広の隠れ家に来てから数日後。
雨季に入っていた水の国は、朝から雨が降っていた。
山姥切が窓の外を眺めていると、加州清光が部屋から出てきた。
その部屋は、ゼロが使っている部屋。
彼らがここに来て数日だったが、彼女は目覚める気配すらない。
加州は山姥切の横に立つと、腕を組む。
「ねえ、そろそろ俺たちを助けた理由を話してくれてもいいんじゃない?」
「別に、助けたわけじゃない……」
「ふーん、ま、いいけど。俺たち、ここにいていいわけ?」
昨日、山姥切が食料の調達に行くと、周辺の村には彼らの手配書が配られていた。
高額な報酬もかけられていたが、彼らを突き出す気は無い。
「勝手にしろ……部屋ならたくさん空いてるからな」
確かに、ここは隠れ家というには不相応なほど広いうえに、ある程度の生活家具も揃っている。
元は誰かの別荘だったのだろう。
夏でも涼しい水の国は絶好の避暑地だ。
木々に囲まれ、他の建物とも距離のあるここは、別荘としては申し分のないとこだっただろう。
戦争が始まるまで、は。
その戦争も、審神者が関係していたと聞いたことがある。
手配書にも、彼らが平和を乱し、再び戦争を引き起こす存在だと書かれていた。
だが、彼らが戦争を引き起こすようには見えなかった。
あくまで干渉するつもりはないが、彼らに興味がある。
特に、審神者に付き従う刀剣男士が、一体どのような大義を持って審神者と共に在るのか。
はぐれ者である山姥切と何が違うのか、彼は知りたかったのだ。