第14章 飛空艇 Ⅰ※※
彼女はしばらく突きの構えを崩さなかった。
そして、静かに刀を下ろすと、落ち着いた低い声で告げた。
「そして私の愛刀……加州清光」
ゼロは愛刀である加州清光を、朱塗りの鞘に納めた。
すると、腰の下げ紐を解いて刀を一期一振に突き出す。
「彼が……この刀が、私の近侍だ」
一期一振と歌仙は驚きの表情をした。
加州清光。
その名も、存在もよく知っている。
最強と言われた刀剣男士、加州清光。
ゼロの近侍であったが、行動を共にしていないことから、彼は一年前の戦いで折れたのだと思っていた。
だが真実は。
加州清光はゼロと共にいた。
彼は刀の姿になってもなお、誰よりもゼロの側に仕えていたのだ。
「ゼロ様、その、加州清光殿は……」
「折れたわけじゃない。彼は自らの意思で刀に還った……私のために」
「そう、でしたか」
一期一振はそれ以上、ゼロに何か言うことはなかった。
歌仙も、何か言いたげな表情をしてはいたが、ゼロに質問することも、いつものような皮肉を言うこともなかった。
ゼロの、悲しそうな顔がそうさせなかったのだ。
「お前たちには聞こえないだろうが、私には今も……ずっと加州清光の声が聞こえているよ」
悲しそうにそう言うゼロは、加州清光に視線を落とすと、小声で何かを呟いた。
山姥切には、彼女が何を言ったのか聞き取れなかった。
だがその仕草に、胸が締め付けられるような息苦しさを感じた。
彼女が加州に向ける表情、それと同じ表情をしていたヤツを、山姥切は知っている。
山姥切は逡巡するかのように、静かに目を閉じた。
雨の音が聞こえる、今でも。
あの日、彼と交わした言葉は、今でもずっと雨音のように心を打ち続けていた。
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