第5章 裏切りの審神者 ここから本編
加州と別れ、ゼロは刀を手に、目的地へと突き進む。
「……殺す!今から会ったやつ、全員殺す!」
瞳が潤むことはあっても、ゼロは泣かない。
悲しくはない、あるのは怒りだけ。
教会都市の中心部へと続く橋を、ゼロはひたすら駆ける。
そして、ふと足を止める。
目の前にあるのは、礼拝堂と言われる建物だ。
ついにここまでたどり着いたのだ。
ゼロの妹達のいる教会都市の中心部に。
ゼロは刀を腰に差していた鞘に納めると、礼拝堂へと歩を進める。
「ゼロ、私たちはここだよ」
頭上から声をかけられ、ゼロが見上げると、そこには、五人の少女が立っていた。
五つの国をそれぞれ統治している審神者。
ゼロの妹達だ。
「久しぶり、ゼロ」
「そうだっけ?」
最初にゼロに声を掛けたのは、ゼロのすぐ下の妹のワンだ。
ゼロとは正反対の性格で、成り行き任せのゼロとは違い、思慮深く、理論的。
争いのない世界を望み、個性の強い妹達を纏めて、戦わずに済む平和な世界を築き上げた。
だが、ゼロはそんな世界を望んではない。
ふと、ワンはゼロの傍に近侍の加州清光がいないことに気付く。
たった一人で、ここまで来るとは。
だが、彼女は自分の力に絶対の自信があるのだろう。
だとしても、彼女は無謀すぎた。
「いつまでも変わらないな、無茶なところ」
「褒められると照れるよ」
「……褒めてないが」
本当は、戦いたくなどない。
せめて、ゼロがここに現れなければ。
審神者を皆殺しにすると言わなければ。
戦いのない、平和な世界にいられたというのに。
「あ、ゼロ姉だ!!おーい!ゼロ姉ぇぇぇい!!」
呑気にゼロに手を振っているのは、二番目の妹のトゥだ。
姉妹の中で一番明るく、無邪気なトゥは、これからゼロと戦うことになると、わかっていないのだろうか。
「あぁ……ゼロ姉さん。うふっ、うふふふふふふふ……」
俯き、小声で何かを呟いているのは、三番目の妹のスリィだ。
他人に無関心な彼女が口を開くのは珍しい。
どうやら、ゼロには興味があるようだ。