第14章 飛空艇 Ⅰ※※
一期一振が身を清めて寝室に戻ると、ゼロは眠っていた。
「あ、あの……ゼロ……様?」
確かに、身を清め終わるまで時間はかかったかもしれない。
けれど、だからといって眠ってしまうのはどうなのだろうか。
一期一振は溜息をつくと、彼女の横に立ち、寝顔を見つめた。
彼女の愛刀はベッド脇に立て掛けられ、いつでも手に取れる位置にはあるが、ゼロは規則正しく寝息を立て、その姿はあまりにも無防備だ。
ゼロは眠っている。
彼女がこのまま目覚めなければ。
もし、このまま夜が明けてしまえば。
一期一振の魂は刀に還る。
それでいい。
誰かを殺すことも、誰かを失うことも、お終いにしてしまいたい。
一期一振はそれを望んでいるはず、なのに。
本当に、それでいいのだろうか。
何故、ゼロを見ていると、こんなにも胸が騒ぐのだろう。
ゼロの顔に手を伸ばし、その頰にそっと触れようとする。
指先が、彼女の頰に触れた瞬間、ピリッと、何か電流のようなものが走ったような気がした。
それと同時に、何かが心をよぎる。
この感覚は何だろう。
そう思った矢先、ゼロの目が開かれ、一期一振を見ていた。
「……っ、ゼロ様っ」
「私が眠っていると思って、残念に思ったか?」
一期一振はカっと顔を朱に染めた。
ゼロはそれを見逃さない。
ゼロは起き上がって彼の襟元を掴むと、グッと引き寄せる。
「還りたいか?命を断ち、全て終わりにしたいか?…………本当に?」
気付けば、一期一振はベッド脇に座らされ、ゼロは彼の目の前に立っていた。
立ち位置が、すっかり逆転していた。
シュッとゼロは髪を結っていたリボンを解くと、一期一振の目を覆う。
「な、何をっ!?」
「お前が望んでいることだよ……一期一振」
ベッド脇に座らせると、ゼロは一期一振の頰を撫でる。
手足を拘束されたわけではなく、本気で抵抗すれば、目隠しを取ってしまうことだって出来る。
けれど、一期一振はそれをしなかった。
「……っ」
頰から唇、そして首筋へと指先がつうっと滑り落ちる。
視覚を封じられているせいで、過敏になっているのだろう。
ゼロが彼の体に触れるたび、一期一振はピクンと体を震わせた。