第1章 野宮 暖人
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それからあっと言う間に3ヶ月の月日が流れた。
千代子さんとの関係は変わらず続いている。
「ハァ…」
俺はこのままずっと彼女との関係をズルズル続けていくつもりなのだろうか…
なんて、最近は他人事のように考えたりもする。
──こんな関係、いつまでも続けていい訳ない…
俺も彼女も心のどこかではそう思っていた。
それでも会えばやはり互いを求めてしまい、離れる事が出来なくなる…
(…どうすりゃいいんだよ……)
ベッドの上でもう一度深い溜め息をつき、ガシガシと頭を掻き毟る……その時だった。
「…?」
不意に鳴ったインターフォン。
休日の昼間に誰だよ…と心の中で悪態をつきながらドアスコープを覗くと、ドアの向こうには意外な人物が立っていた。
「…千代子さん…?」
「っ…、暖人…っ」
「ちょっ…」
ドアを開けるなり、俺に抱きついてくる彼女。
何があったのか分からないが、どうやら泣いているらしい。
「連絡も無しにどうしたんですか…」
震えているその体を抱き寄せ、部屋の中へ入るよう促す。
彼女はしばらく泣き続けていたが、ようやく落ち着いたのか涙を拭いこちらを見上げてきた。
「ごめんなさい…突然押し掛けてきて……」
「…それは別にいいですけど……」
「主人と久しぶりに大喧嘩して…我慢出来ずに飛び出してきちゃったの…」
「……。また旦那の浮気が原因?」
「…ええ……でももう私にはあの人を責める権利なんて無いわ…。私だってこうしてあなたと会ってるんだから…」
「………」
その言葉にチクリと胸が痛む。
彼女の想いがどうであれ、所詮俺は"浮気相手"でありそれ以上でもそれ以下でもない。
法律上、彼女の旦那には一生勝てないのだ。
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