第2章 来栖 龍之介・壱
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「ねぇ来栖くん…また私と会ってくれない?」
「…え……?」
情事の後…
着替えを済ませた瞳さんが不意にそんな事を言ってきた。
確かに彼女はそこらにいる女と比べれば魅力的だ。
けれど俺たちの関係は今夜一度きりという約束だったはず…
「百合香ちゃんには怒られちゃうかもしれないけど……私、来栖くんの事気に入っちゃったの」
「……、」
「あなただって感じたんじゃない?…私たちの体の相性がバッチリだって事」
「そ、それは…」
そう言われると何も言い返せない。
その証拠に、ついさっきまで俺たちは何度も体を重ねていたのだから…
「勿論百合香ちゃんからあなたを奪う気なんてないわ…。ただ…時々私と会ってくれないかしら?」
「ん…、」
俺の首に両腕を絡ませてきた彼女が唇を重ねてくる。
その腕を振り払うのは簡単な事なのに俺には何故かそれが出来ず、気付けば彼女からのキスに応えていた。
「ふふ…来栖くんもその気になってくれた…?」
「……、」
「…また連絡するわ」
そう言ってもう一度触れるだけのキスをした彼女は、ひと足先に部屋を出ていく。
(…何やってんだ俺)
こんな事が泉にバレたら洒落にならない。
頭ではそう解っているのに…
「社長…昨日はずいぶんお楽しみだったみたいですね」
「っ…」
翌日。
いつものように社長室で執務をこなしていると、背後から泉にそう声を掛けられた。
一瞬ドキリと焦ったが、彼女の口から出てきた言葉は俺を咎めるものではなくて…
「瞳さんから連絡を頂いたんですけど…彼女『とても満足した』と仰っていたので」
「…そ、そうか……」
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