第9章 相手が話してるのに電話切るのはダメ、絶対
家に続く坂道。
あの悪夢のブロック塀の前で、さすがに自分の顔が強ばるのが分かった。
でも同時に、繋いだ手に力がこめられたのも分かり、高杉君の顔を見上げた。
小さく頷かれて、私はちょっと微笑んだ。
こんなに簡単に、安心出来るんだ。
「高杉く…あの、晋…」
「姉ちゃん、おかえり!」
私の言葉を遮ったのは、今度は弟だった。
なんで玄関の外にいるのよ。
「高杉さん、いつも姉ちゃんがお世話になってます」
「あぁ…」
その後、弟は私が痴漢を蹴飛ばした事、小学校と中学校の9年間、空手全国大会で常に3位以内だった事をしっかり高杉君に話した。
そのうえ家に上がれと誘う弟を止め、家の中に押し込んでから、ぐったりした顔で高杉君と向き合った。
「なんか、騒がしい弟で、ごめんね」
「別に…それより、お前けっこうたくましいんだな」
…えぇ、すいません、か弱く悲鳴上げるタイプじゃないんです。
「さすが、俺を惚れさせただけの事はあるってもんだなぁ」
高杉君はそう言って、私の羽織っているパーカーを少しずらし、鎖骨の下あたりに唇を付け、強く吸った。
「ちょ、やっ」
赤く付いた痕を満足そうに見て、唇の端を持ち上げる。
「さっきの仕返しだ」
「〜晋助のバカ」
高杉君の笑い声は、私だけが聞いていた。