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ハツコイ

第9章 相手が話してるのに電話切るのはダメ、絶対


高杉君が止まったのは、花火を見た神社の前まで来た時だった。
「少し時間あるか?」
「え?あ、うん。今家弟しかいないし」
私が答えると、高杉君の顔は、やっと少しだけ緩んだ気がした。
花火の日と同じベンチに座る。
すぐ横の自動販売機で、高杉君は水を買うと、ほとんど一気に飲み干して、ゴミ箱に投げ入れた。
その様子をぼんやり見ていたら、バッグの中で携帯が震えた。
弟からLINEだ。
「朝帰りしても父ちゃん達には内緒にしてやる。口止め料はバトルロイヤルホストのステーキランチで!」
ウインクする顔マークのスタンプ。
…いつからこんな子に。姉としてどうすれば良いのか見えないよ。
そういえば、掃除当番の初日に買ってもらった水。残りは冷蔵庫に入れておいたら弟に飲まれたんだよな。絶対言えないけど。
「どうした?」
ぼおっとしてたら、高杉君が覗き込んだ。
細長い指が、私の頬を撫でる。
「何か飲むか?」
首を降って、携帯をバッグに戻す。
高杉君が隣に座ったかと思うと、突然抱きしめられた。
「ちょ、高杉君、どうし…」
「焦った」
「え?」
「銀八から電話が来て、が襲われたって聞いて、頭真っ白になっちまった」
「あ…うん」
「怪我したのか、どんな状態なのか聞く前に電話切っちまったから、さっき、顔見るまで、すげぇ…」
怖かった。そう聞こえたのは気のせいかな。
でも高杉君の背中は確かに少し震えていて、今は顔を見ちゃいけないと思った。
「あんま…心配…かけんじゃねぇよ」
「うん、ごめん」
高杉君の右手は私の後頭部、左手は背中をぎゅっと抱いていて、ちっとも身動き取れないし、息苦しい。でも、なんだかすごく落ち着く。タバコと香水と、ちょっと汗の匂いを、鼻から思い切り吸い込んで、高杉君みたいに大きくため息を吐いた。
その途端、私はきつく抱きしめられていた腕から開放された。
高杉君は右耳を押さえている。
…ん?
「高杉君、どうかした?」
「なんでもねぇ。帰るぞ」
…もしかして。
ベンチから立ち上がったタイミングで、高杉君の肩を抑え、今度は左耳に息を吹きかけてみる。
「おまっ!やめろ」
僅かに顔が赤い。
…やっぱり。耳…。
高杉君は、ニヤニヤする私の顔を両手で挟んだ。
「こら、あんまり生意気な事すんじゃねぇ」
私の返事は、高杉君の唇が遮った。
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