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ハツコイ

第9章 相手が話してるのに電話切るのはダメ、絶対


3人で警察署を出る。
私に手を振る婦警さんに、満面の笑みで両手を振り返す銀八先生をチベットスナギツネの眼で見てたら、高杉君に手を握られた。
少し汗ばんで、いつもよりもっと熱い手。
「家まで送る」
「あ、うん」
「あ、高杉ー。婦警さんも言ったように、の事、ちゃんと家まで送りなさいよ。間違っても送り狼になるんじゃないぞ。いいな」
「…うるせぇな」
「先生に向かってうるせぇとか言わない。先生、今ちょっと傷いちゃったぞ」
先生の小言は、今度は夜の空気に消えていった。

高杉君は無言で、少し早足で歩く。
私はその顔を左側だけ見ながら、なんとか歩幅をあわせて歩く。
全然表情わかんない。
それに、実は右足の小指が少し痛い。
痴漢を蹴り上げた時、サンダルが脱げて、ブロック塀に擦っていた。
あの婦警さんに絆創膏を貼ってもらったけれど、早足で歩くとサンダルの紐に強く当たるからだ。
「ねぇ、高杉君、ちょっと早い」
思わず声に出したけど、答えないし、速度も変わらない。
「ねぇって、私、右足怪我して…わぶっ!」
今度は急に止まったので、私は高杉君の左腕に鼻をぶつけた。
「…急に止まらないで…」
「怪我ってどんなだ?何された?」
高杉君があんまり真剣な顔をするので、私はなんだか急に後ろめたい気持ちになり、ボソボソ答えた。
「や、いや、別にそんな対したアレじゃないんだけど…右足の小指に擦り傷みたいな。サンダルに当たると、ちょっと痛いかな、ってくらいで…」
…えっと、なんかごめんなさい。
思わず下を向く。
頭上からため息が落ちてくる。
高杉君はまた黙って、今度はゆっくり、歩き出した。
私もまた黙って、ついて歩いた。
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