第9章 相手が話してるのに電話切るのはダメ、絶対
事情聴取の為、連れて来られた警察署で、私は電池残量25%になった携帯電話を見つめていた。
まったく、本当に最悪な日だ。
隣で弟は担任の坂本先生に電話をしている。
本来は両親に来てほしいと言われたが、どんなに急いでも半日かかる場所にいると言ったところ、代わりに学校の先生を呼ぶよう言われたのだ。
「大丈夫?怖かったでしょう」
婦警さんが私に話しかける。
金髪ロングヘアで、ピンクのスーツを着て、見た目派手だけど、優しい感じの人だ。
「大丈夫です。対した怪我もしてないし」
痴漢男は骨折したみたいですが。
「まぁ、頼もしい姉弟ね。先生来てくれたら、帰って良いからね」
「はい」
そして20分後、警察署に来たのは銀八先生だった。
「銀八先生、坂本先生は?」
私の問いに、銀八先生は苦笑した。
「いやぁ、それがなぁ、坂本先生弟君から電話もらった時、メシ食ってたらしいんだけど、レジの後ろに船の写真が飾ってあるの見たら、気分悪くなっちゃたんだって。で、銀八先生に代わり行けって連絡来たの」
…なるほど。
「じゃ、先生送るから、帰るぞ」
「はい、あ、その前に私トイレ行って来ていいですか」
そう言って、私は銀八先生と弟を廊下で待たせ、トイレに入った。
高杉君の声が聞きたかった。
電池残量は19%だけど、少し話すくらいなら間に合うよね。
何て言おう。何て言われるだろう。
ちょっとドキドキするな。
『ツー、ツー、ツー…』
話し中…。
まぁ、そういう事もあるよね。
私はため息を吐いて、携帯電話をバッグに戻した。
トイレから出ると、弟と銀八先生は同時に私を見た。
「じゃ、姉ちゃん、俺先に帰るから」
「は?ちょっと、待ってよ。私もかえ」
「あー、お前は残りなさい。そのうち高杉来るから」
…はい?
「じゃー銀八先生、姉ちゃんの事、お願いします。あ、高杉さんにもよろしくお伝えください。姉ちゃんじゃーね」
頭にクエスチョンマークを浮かべて立ち尽くす私に、銀八先生はしみじみした口調で言った。
「いやぁ、良い弟だねぇ」
「えと、あの、先生、どういう…」
「さっきお前がトイレ行ってる間に、弟君に言われたのよ。『高杉晋助さん呼んで下さい。こういう時に姉ちゃんが側にいてほしいと思うのは、きっとあの人だから』ってさ。だから先生、さっき高杉に電話しました」