第9章 相手が話してるのに電話切るのはダメ、絶対
今日は早朝から両親が泊りがけで出掛けていて、弟と2人で留守番。
天気予報通り、昼はずっと雨だったので、宿題したり家の掃除をして過ごした。
お昼は弟にリクエストされた、トロトロタイプのオムライスを作り、大盛りを頬張りながら高杉君との進展具合を聞いてくるのを適当にあしらう。
18時過ぎに雨があがったので、散歩ついでに駅まで歩き、ラーメンを食べて帰った。
その帰り道、私は17年間の人生で、たぶん最悪の目にあった。
弟はコンビニに寄ると言ったが、私は携帯の充電が切れそうだったので、先に家に向かった。痴漢の件が一瞬頭を過ったのが、いわゆる第六感的なものなのだろうか。
坂道の途中、家と家の間の、細い路地の前を通りかかった時だった。
突然、腕を掴まれた。
そのまま路地に引っ張られる。
荒い息が首筋にかかり、鳥肌が立つ。
痴漢だ。
次の瞬間、住宅街に響いたのは、野太い男の悲鳴だった。
私の渾身の回し蹴りは、みぞおち辺りに当たったらしい。うずくまる痴漢男に、かかと落としを追加しようとした時、弟が走って来るのが見えた。
「どうしました⁉って、姉ちゃん!」
「こいつ、痴漢よ!」
私が叫ぶと同時に、痴漢男が起き上がり、逃げようとした。
すかさず弟が立ちはだかる。
住宅街には、背負投げされた痴漢男の悲鳴が再度響いた。