第6章 適度な糖分は人生にも恋にも必要不可欠
7月14日 土曜日 晴れ
白地に紫と薄いピンクで藤の花と蝶々。
帯は濃いめのピンク。
鼻緒が帯と同色の下駄。
濃い紫の巾着バッグ。
それと。私はアクセサリーケースを開けた。
紫の石が藤の花になっている簪は、一昨年の春、お父さんに趣味の骨董品巡りに付き合わされた時、ひと目で気になった物だ。
元々かなり高級品だったらしく、多少石に傷が付いてはいたけどなかなかの金額で、入学祝いのバッグと財布を諦める代わりにと、しぶしぶ買ってもらった。
骨董品屋のおじさんは、丁寧に包みながら、
簪は今でいう婚約指輪みたいな物だったんだよ、と教えてくれたっけ。
私はまとめた髪に簪を挿した。
これが付けたくて買った、藤の花柄の浴衣に良く似合う。
どんな男の人がこの簪を贈って、どんな女の人が受け取ったんだろう。そしてどうして傷が付いて、骨董品屋さんに行ったんだろう。
なんとなく、女の人が自分の意思で手放したようには思えなかった。
って、何考えてんだろ。
私は苦笑して、もう一度鏡を見てから、勢いよく玄関を出た。