第5章 『教室はまちがえる所』って詩あったよね
少し強い風が吹いて、レースのカーテンがふわりとふくらみ、視線を遮った。
顔に当たる直前で払いのけようとした時、高杉君が左手を伸ばしてカーテンの端を掴む。そのまま私の背中越しに右手で反対の端も掴んだから、私は高杉君と一緒にカーテンにくるまれる格好になった。
2人の距離は、5cmくらいしかない。
なになに?なんなの?
高杉君は見たことないくらい真剣な顔で、小さく息を吸い込んだ。
右眼に映る私も、息を飲んだ。
「なぁ、もし俺がお前の事が好きだって言ったら、どうする?」
…え?…え?…えぇ!ど、え、どうって…
…あれ?なんか、こんな事、昔、ずっと昔にもあった気がする。あの夢みたいな。
こんなふうに、真剣な眼で見つめられて。
そうだ、私はずっと高杉君に会いたかった。
だからこうやって一緒に居られて、すごく…
「…嬉しい」
高杉君の眉がちょっと動いて、私は自分が声に出していた事に気がついた。
「…嬉しいか…じゃあ、俺と付き合えよ」
「……うん」
小さく返事をした私の唇に、高杉君の唇が、そおっと触れた。
人の唇って、こんなに熱いんだ。
緊張してるのに、高杉君の体温が嬉しくて泣きそうなんて変かな。
学生時代の恋人と、一生一緒にいる人なんて少ない事くらい知ってる。
だけど、いつか私がおばあちゃんになって、自分の名前も、ご飯食べた事も忘れちゃうようになっても、高校3年生の夏休み直前、放課後の教室でカーテンにくるまって、生まれて初めてしたこのキスは覚えていたいな。
ねぇ高杉君、好きって、なんだか懐かしいと似ているんだね。