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ハツコイ

第5章 『教室はまちがえる所』って詩あったよね


7月13日 金曜日 曇りのち晴れ

夢を見た。
時代劇で見る江戸みたいな、和風の家の中で、私は1人で泣いていた。
私には大好きな人がいて、その人はとても危険な仕事をしていて、あまり会えなくて。
ただ無事に帰って来てくれるよう、願う事しか出来ない、そんな無力な私を、とても大事にしてくれる。例えば自分が死にそうな怪我をするより、私が捻挫でもする方が嫌。
そんな人の事が悲しくて、愛しくて、どうしようもなくて、私はただ泣いていた。

「変な夢だったな」
起きてからも心の中に、懐かしいような、悲しいような、寂しさの破片が残っていた。
そして何故か、猛烈に高杉君に会いたいと思った。自分の体の中で、縁日の金魚みたいに、いろんな感情が暴れている。
私は洗面所に走り、冷たい水で顔を洗った。
とにかく、今日で掃除係も1学期も終わりだ。
「無事に過ごせますように」
鏡の中の自分につぶやき、私は身支度を始めた。

明日から夏休みというウキウキ感は、学校全体を包んでいる。 
校庭からは陸上部のかけ声より、遊んでいるらしい声が大きい。
神楽ちゃんと沖田君が喧嘩してる声とか、近藤君が妙ちゃんに投げ飛ばされている叫び声とか…賑やかだな。
私と高杉君は教室の窓際にある棚の上に、行儀悪く腰かけて、足をブラブラさせてた。
今日も暑くて、私はカルピスソーダをゴクゴク飲む。
窓から入る夏の日差しが、教室の床にカーテンの影を踊らせる。
高杉君は調理実習で作ったケーキを食べている。もちろん?彼はサボっていたので、私が取っておいた分だ。
「甘ぇ」
「そりゃケーキだから。これでも銀八先生の体を考えて砂糖少なめにしたんだよ」
「あんだけ飴舐めてりゃ意味ねぇだろ」
「う…ん、それは確かに」
「まぁでも、うめぇよ」
「本当?良かった。妙ちゃんが参加するのを新八君が止めたかいはあったね。っていうか新八君かわいそうだったよ。日直だからって先生に高杉君探すように言われて、学校中走ってたんだから」
「プールには来なかったぜ」
「…だって私言わなかったもん」
私がつぶやくと、高杉君は唇の端を持ち上げるだけの、あの笑い方をした。
心臓が、柔らかい羽で撫でられたみたいな気分になる。
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