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ハツコイ

第4章 兄妹(姉弟)が物話のキーポイントってありがちだよね


「万斉のヤツ、俺の顔見る度にバンドやろうってうるさくてな。断っても断っても来るから、逃げてんだ」
バンド?高杉君が?え、何系?まさかのビジュアル系とか…。
「…プッ」
思わず吹き出した。
「おい」
「フフッごめん…つい…」
笑いが止まらない私を、高杉君は呆れたような声でつぶやく。
「お前の想像で俺はどんな格好してんだよ」
「ごめんって…」
「ったく、行くぞ」
教室を出る高杉君を、あわてて追いかける。
「高杉君?どこ行くの?そっちプールだよ」
相変わらず返事をせずに歩くので、仕方なくついて行く。
プールはもちろん誰もいなくて、カルキの匂いが静かに揺れている。
高杉君はプールの端まで来ると、靴と靴下を脱ぎ、制服の裾をまくり上げると、プールに足だけ入れ、地面に仰向けになった。
「え、何してるの?」
「お前もやってみろよ」 
私は一瞬迷ったけど、思い切って高杉君の右30cmくらい横に同じように寝てみる。
「わぁー、気持ちいいね」
「…俺のお気に入りのサボり場所だ。この時期、屋上じゃ暑くてな」
「サボりって…。でも、お気に入りの場所って人に教えちゃって良いの?」
「…お前は良い」
…えっと、だから、それどういう…。
あれなの?なんか野良猫みたいなモノだと思われてるの私。それとも、神楽ちゃんが言ってたみたいな…ダメだ、考えるの止めよう。
私は深呼吸して、夏空を見上げた。
夏の夕方の空はまだ青く、白い雲が光る。
校庭から陸上部のかけ声が、風に乗って聞こえてくる。
「…私ね」
高杉君が右眼だけ動かす。
「小さい頃から、空を見上げてると、なんだか心もとない気がするって言うか。吸い込まれそうな、体がどこかに行っちゃう気がするの。自然に体が浮き上がって、そのまま空に溶けそうな感じ…」
我ながら何言ってるんだと思ったが、高杉君は笑いもせず、じっと聞いていた。
ふと、左手に熱い手が触れた。
びっくりして見ると、高杉君は視線を空に戻したまま、私の手を上から押さえるように握っている。
「なら、俺が押さえといてやる」
「…うん」
夏の熱さも校庭の喧騒もよそに、私達はプールサイドで空を見ていた。
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