第6章 【閑話休題】ゆきとすず
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びりびりと紙を破る音が聞こえてきて、は思わず目をひん剥いた。
案の定、幸村は読み終えたらしい書状を細かく裂き。
丁度よく吹いてきた風に乗せるように、握っていた手を開いた。
あまりの事に、は隣にいた信玄の袂を掴み、動揺混じりにゆさゆさと揺さぶる。
「しっ、信玄様っ…!!
折角のお手紙っ、あいつ、なんでっ…!?」
「…幸なりの配慮だろう。
万が一敵の手に落ちた時、すずの書状があっては危険が及びかねないからね」
「わお、幸村…男前だ。でも、寂しすぎますね」
佐助が心配そうに、風に揺らぎそうな程儚く見える幸村の背中を見つめる。
思わず唇を噛み俯く、の頭を信玄は優しく、しかし悪戯っぽくぐしゃぐしゃとかき混ぜた。
「天女は優しいなぁ。
佐助も、君は本当に良い奴だ。
幸とすずなら大丈夫、案じることは無いよ」
「そ、そうなんですかぁ…?」
「…二人は、離れていても通じあっているんですね」
なんだか、羨ましい。
ほんの小さくが呟いた声はしかし、風に乗って微かに信玄の耳に届いた。
──必ず私は毎月半ばに、文を送ります。
もし文が途絶えた時は、私が死んだ時です。
忙しいだろうから、ゆきの返事はいりません。
でも、もし…ゆきが、死んだ時には。
信様、お顔も存じませんが上杉様、皆々様。
どうか文で良いですから、お知らせ下さい。
ゆきが、奥様を娶った時もです。
このような文は邪魔になるでしょうから、止めねばなりませんのでお知らせ下さい。
便りがないのは元気な証拠だと思っています。
ゆきが元気でいる事を、何よりも願います。
越後に来てすぐ、届いた文の内容は今でも覚えている。
すずが可愛い家臣の連れ合いである事を嬉しく、微笑ましく、そして同様羨ましく思いながら、信玄は微笑んだ。
そして、いつか必ず、と。
幸村の背中を横目に、故郷を思い、静かに目を閉じるのだった。