第4章 刹那主義
「何か、愉しい事は起こらない物か」
鍛錬場から城へと戻る道すがら。
隣を歩く謙信様がぽつり、とそんな事を零した。
「今日の鍛錬も、楽しんでおられたじゃないですか?」
「鍛錬は楽しむ為の物では無いだろう…
まぁ少しは、楽しんでいたかも知れんが」
「やっぱり、ふふ…多少は楽しんでたのですね。
素直な謙信様、素敵です」
「もっと血の沸き立つような…
そう、戦のように心躍る事が何か起こらぬものか」
最近、私の言葉に慣れてしまったのか扱いが雑い…
そんな気持ちを抱え、むっすりと頬を膨らませてみる。
少しの間視線がかち合ったその瞬間、ぬっと伸びてきた手のひら。
親指と中指で頬をぷしゅ、と潰された。
「は、たまに滑稽な表情をしているが…
それでは暇は潰せん」
「こ、こっけい…いたいれふ」
漸く開放された頬をさすりさすり、また謙信様の歩みに合わせ歩き出す。
全く、手加減がない…痛みも引いてきて前を向き直ると、にっこりと微笑む信玄様がこちらに歩いて来るのが見えた。